Q1 編集者を目指した理由を教えてください
私は幼い頃から本や漫画が好きで、宿題も習い事もせずに漫画を読んでいたような子供だったので、親にはよく怒られていました。「怒られることなく堂々と漫画を読む方法はないのか」と思ったときに、初めて編集者という漫画制作に関わる仕事を知りました。就職活動を始めた大学3年生の冬、ふと当時のことを思い出し、編集者を意識し始めました。コロナ禍で家に引きこもって漫画を読んでいて、かなり漫画熱が高い状態だったこともあり、編集者を目指すことに決めました。
私は元々BLの二次創作が好きだったので、大学卒業が視野に入ってきたタイミングで、興味があることを仕事にしたいと思い、商業BLの編集者を志しました。それからはBLの編集部がある出版社に片っ端からエントリーして、オーバーラップに入社しました。
最初から商業BL一本に絞って考えられていたのですか?
そうですね。編集部は商業BLのみで考えていました。本がずっと好きではあったので、他に図書館司書なども考えたのですが、色々迷った末にBL編集部にしました。Y.Oさんはどんな理由で編集者を目指しましたか?
私も幼い頃から本が好きでした。でもライトノベルが好きだったというよりは、日本海外問わずファンタジーが好きで、当時は図書館で借りられる上限いっぱいに本を借りて2週間で読んでは返していくみたいなことをしていました。中学生の頃、友達に勧められたことをきっかけにライトノベルと出会い、「日本のファンタジーってこういうのもあるんだな」と興味を持ちました。そして就職活動の時は、ファンタジー作品や本に関わる仕事がしたいという思いで、ライトノベルの編集者を目指しました。私も図書館司書は考えましたが、「今までなかったような世界を作りたい」という思いが強く、制作する方に興味があったので、出版社に絞って就職活動をしました。
私は昔からジャンル問わず本のあとがきを読むのがすごく好きだったんですよね。あとがきにはよく「編集の人ありがとう」という言葉があるじゃないですか。 それをきっかけに作家の裏方である編集者の存在を知り、興味を持ったので目指すことを決めました。就職活動の時期になって出版社について調べたところ、編集者の間口が狭く、就職の難しさを知りました。しかし、他の業種で働くイメージが想像できず、やっぱり本を作る仕事が楽しそうだなって思ったので、編集者志望として出版社を受けることを決めました。
やっぱり本が好きっていうところはみんな共通していますね。

Q2 入社前と入社後を比較して感じた編集者の仕事へのギャップを教えてください
編集者の仕事って調べてもあまり情報が出てこないんですよね。イメージできるものといえば、作家さんや漫画家さんがテーマの作品や、作家さんの声などです。そういったものは誇張も込みで面白く書かれていることが多いので、徹夜して朝まで会社にいるような働き方を想像していました。しかし、実際にはそんなことはなく、働き方に自由度があり、想像していたよりも働きやすい環境でした。
私は漫画の面白いページと出会う度に、作家さんが何を考えてこのページを書いたのかを知りたいと思っていました。実際、作品を制作していく中で、やはり、作家さんの表現力と発想力には想像以上のものがあると感じる瞬間はたくさんありますね。日々自分にはないアイデアを提案してくださったり、こちらから提案したものを面白く作品に落とし込んでくださったりする作家さんの創造力にはとても驚かされます。一方で、作家さんやデザイナーさん、印刷所の方などを含め、本に関わる全ての人を繋ぐ役割を担っているというのは想像していませんでしたし、これからも頑張らないといけないところですね。
私も作家さんと一緒に仕事をしていくイメージはありましたが、イラストレーターさんやデザイナーさんとの関わりというのはあまりイメージできていませんでした。このお三方と仕事をしていくのだなというのは入ってから初めて知りましたね。
思っていたより編集者の裁量が大きいですよね。
分かります。どういうイラスト内容にするかなどを編集者が提案していたことには驚きました。
カバーなどの構図も考えていたりしますしね。「文章を書くことが仕事なので、デザインに関しては編集者とデザイナー様に任せます」といった作家さんも多いです。そういった場合は、より編集者のアイデアが大事になってきます。
そうですよね。帯の文章なども編集者が作っていたんだなって驚きました。当たり前のように目にしていましたけど、仕事をしてみて改めて気づかされましたね。
この仕事を始めてまだ1年ほどでこれらの仕事を任せていただけることはすごいことだなと思いますね。最初はびっくりしました。自分が考えた文章が書店の店頭に並んでいるわけじゃないですか。
確かに。
今でも書店で見かけたら嬉しくなります。

Q3 作家さんとコミュニケーションを取るうえで意識していることを教えてください
やっぱり一番はレスポンスの速さですかね。これって、受け答えの器用さや特別な知識・スキルがない新人にも実践できることじゃないですか。むしろ、特別なことがそこまでできないからこそ気を付けるべきところというか。例えば、ネームをいただいたとき、自分の手が塞がっていてすぐに見られないような場合でも「ネームありがとうございます」や「〇日までにお戻しします」などの返事をすぐにすることは日々意識していることの一つです。こういった積み重ねが作家さんからの信頼に繋がると思っています。
私がこれまで学んだ中で、大事にしたいなと思っているのは、頂いたご提案やご意見を頭ごなしに否定しないことです。私が思っていることと作家さんやイラストレーターさんなどが想定しているものが違うことがあるので、そういった時は「どういう意図でその案を出してくださったんだろう」ということを考え、作品に関わる全員にとって一番良い方向性を模索するようにしています。
私は意見をするときには必ず根拠を添えることが大事だと思います。本文の中でより良くしたいと思っているところを「こうしてください」「この部分を膨らましてください」といったふわっとした言葉だけではなく、全てに根拠をつけて伝えることを心がけています。これはイラストや本文、企画の全てに言えることです。あとはそうですね、全く別の観点で言うと、私は作家さんと親密な関係性を築くことを大事にしています。もちろんそれが苦手な作家さんもいらっしゃるので、話してみないとわからないですが、なるべくお互いが物事を言いやすいような距離感を作ることを目標にしています。
私の場合、他の編集者の方とも仕事をしてきた経験のある作家さんに対しては、最初の電話の段階で一緒に作品づくりをしていく上での要望を聞いていますね。
やっぱりヒアリングが大事なんですね。
そうですね。最初にヒアリングをすることで、それぞれの作家さんにとって何がベストなコミュニケーションなのかを確認しています。あと、良かったと思った部分は、しっかり作家さんにお伝えするようにしています。
わかります。私も原稿に感想をたくさん書いています。
「めっちゃいいですね」とか私もあえて堅い言葉にはせずに書くことがよくあります。
そうですよね。お互いに高いモチベーションで作品づくりをしようと思ったら、作家さんに気持ちよく描いていただくことがとにかく大事かなと思います。
1対1で担当としてついているわけなので、誠実なコミュニケーションを心掛けることが大切ですね。